**はじめに(動的幾何ソフトと数学教育) *** 2025年は教科書での動的幾何コンテンツ元年 -2025年の中学校数学教科書から,QRコードの先に,動的幾何コンテンツが用意されるようになりました。 -「特別な授業」は,1990年以降,いろいろな形で取り組まれてきましたが,「すべての先生,生徒の目に触れ,体験可能になった」のです。 -「特別な授業」とはいえ,世界的には動的幾何ソフトはさまざま開発され,多くの研究・実践も重ねられてきたことを踏まえると,「日本の日常的な数学教育の中でやっと当たり前の存在になった」のはとても喜ばしいことであるとともに,「どうしてこんなに時間がかからないと当たり前の存在にならないのだろうか」とも思います。 -- 実際,つい数年前まで,学部学生は中学校・高校で動的幾何ソフトに接したことがないので,数学教育法の授業で「こんなソフトがあるんですね」と初めて経験し,生まれる前から研究授業が実践されていたのを初めて知る,というようなことも多かったのです。 *** いまどきの特別な授業で使われるのはGeoGebraなのかもしれないけど - 研究発表などでは,GeoGebraの存在感が強くなってきました。 - 多くの先生方にとっての認知度が上がり,動的幾何ソフトを使うことが当たり前になっていくことは,すばらしいことです。 - とはいえ,これまでのことをふりかえると,「そう簡単には数学教育の現実は変わらない」のかもしれません。 - いま,「特別な授業」として実践されている方々の取り組みの多くは,過去に,カブリであったり,GSPであったり,またGCであったり,いろいろなソフトを使って取り組まれたことであることも多いからです。 - もちろん,仕事のプラットホームが変わってきていますから,変わっていけるのかもしれません。 - ただ,多くの方々が,「孤立して」取り組まれているような印象を受けるのです。 - 以前は,もっと「先生方の結びつき」が強かったように思います。 - 新しい時代に合わせた形でのコミュニティ形成と,知識やノウハウの蓄積や共有を並行して行っていくことが不可欠に思うのです。 *** 過去を整理しながら,次世代に生かせるものを模索してみたいと思います。もちろん,新作も提供しながら。 - GC/html5というソフトが,そのまま次世代でも使われるとは思いません。 - しかし,このソフトを使いながら蓄積してきた,さまざまな問題意識,教材開発,授業実践,そのたさまざまな知識とノウハウの中で,次世代に生かしていけるものをうまくバトンタッチできるよう,いろいろな試行錯誤をしてみたいと思います。 *** 数学教育学研究や,数学教育実践に対するICTのインパクト - 日本の数学教育学研究や,実践の中で,ICTのインパクトは過少評価されてきたのではないか,個人的にはそう思います。 - 別の観点から考えると,たとえば,ICTと理科や技術,あるいは音楽,体育,美術など実技系,また英語などとの親和性は高いと思います。数学はICTとの親和性が高いと思う方が多いかもしれませんが,けっしてそうではありません。旧来的な学力を習得するタイプの学びを支援するためのICT利用はわかりやすいですが,ICTを問題解決の手段としたときに生まれる新しい数学的探究の世界を考えたり,ICTで構成される環境とのインターラクションで生成される学びの様子を考えたり,新しいカリキュラムのあり方を考えるとき,とても難しい問題がさまざまに生まれてくるのです。 - でも, それは違う観点から考えると,「新しい数学のあり方」を研究開発していくためのフロンティアでもあって,単なる「わかりやすく学ぶための小道具としてICTを使う」のとはまったく別の数学教育学的フロンティアでもあるのです。 - 具体的な事例を伴いながら,ときには理論的な考察も伴いながら,模索してみたいと思います。