**GC/html5とは -飯島康之(愛知教育大学・名誉教授)が開発した動的幾何ソフト(作図ツール)です。 ***1. 「図形を動かして調べる」ためのソフト - 中学校や高校で学ぶ図形では,「証明」を考えます。 - そこでは,「補助線の引き方」が重要だったりしますが,ある意味で,「静的」な思考が重要であり,また,その思考の「道具」としては,「紙」がとても大切です。 - 一方,そこでも,「条件を満たすようないろいろな場合」を念頭で考えてみたり,あるいは,実際にそういう教具をつくって調べてみるようなことが,昔からありました。 - 1990年前後,そういう「動的な探究」を可能にしたいという思いと,それを実現するためのコンピュータの性能そしてプログラミング環境が揃ったことで,ほぼ同時に世界のいろいろなところで,「図形を動かして調べるソフト」が開発されました。 - GC/html5の出発点は,1989年に初版を公開した,Geometric Constructor というMS-DOS上で動作するソフトです。 - 最初は,DOS版,次はwindows版, さらにJava版を経て,2010年から,現在のhtml5版に至り,名称は,GC/html5としています。 - 公開等は愛知教育大学に勤務してからのことですが,開発の出発点は,上越教育大学時代(1987-1989)にありました。 - 「数学的な意味で作図し,変形したり測定したり,軌跡を残して探究するソフト」というようなコンセプトでGCを開発し,そういうものの総称として「作図ツール」(単体用のソフトではなく汎用ツールという意味で)という概念を提案し,実践をしてきました。 - 「図を分析して作図し,そして動かす...」ということを想定していましたが,特にiPadでマルチタッチで図を動かせるようになると,かなりゆるい条件で図をつくり,手の動かし方を工夫して探究するケースや,そこに書き込みをしながら議論することで盛り上がる生徒の様子なども拝見すると,「図を動かして調べる」ということの意味は,かなり広く考えてしまっていいのではないかと感じるようになりました。 ****1.1 「動的幾何ソフト」そして,「作図ツール」さらに,いろいろな名称 - この種類のソフトを表現する名前には,いろいろなものがありました。 - 私は,「一つの図のためのソフトではなく,汎用ソフト」という意味で,「ツール」という言葉を使って「作図ツール」という名称を使いました。 - 「幾何ソフト」とか「図形ソフト」とかいろいろありましたが,現在は,「動的幾何ソフト(dynamic geometry software)とい言葉が使われることが多いです。 - ただ一方で,上述したような「幾何的な意味でしっかりと作図する」のではなく,もっとゆるい意味での作図が意味があることもあるので,「幾何」という言葉は「初等幾何」だけに限定して理解するのではなく,かなり「ゆるく広く」理解していただくことが大切と感じます。 ****1.2 二つの側面/数学的探究そして授業の道具 - ソフトには,いろいろな側面がありますが,GC/html5は,中学校の授業の中で使うことが基本だったので,「授業の道具」としてという側面が強いです。 - 一方,そこでのねらいの一つは,生徒の数学的探究を広げあるいは深めていくことにあるので,「数学的探究の道具」という側面もあります。 - ただ,「誰にとっての数学的探究」を想定するかによって,その機能の充実さはさまざまなはずで,GC/html5は,主に中学校を,そして部分的に高校を想定しているといえるでしょう。 -- もちろん,事例によっては,小学校的な使い方や,大学の数学に合わせた使い方もありえます。 ****1.3 「コンテンツ開発用の道具」の性格が強くなってきたかも - 90年代のGC/DOS,GC/Winの時代は「ソフトを起動してファイルを読み込んで」という使い方が中心でした。 -- そこに補助線等を追加するとか,自分で最初から作図するという使い方も想定しますけど,「生徒が自分で作図する」実践は,当初からほとんど行ったことはありません。もちろん,「生徒が勝手に学んで,使いこなせるようになる」のはとてもいいことなのですけど。 - 2000年代のGC/Javaでは教科書準拠コンテンツの開発を目指したので,「起動時に指定してあるファイルを自動的に開く」というスタイルを実現しました。 - 2010年代のGC/html5ではGC/Javaのような使い方の他に,本体そのものに起動時に使うデータを組み込んでしまう,「単一ファイル」というものを開発しました。GC/Javaではサーバへのアクセスが不可欠でしたが,単一ファイルhtmlファイルそのものなので,たとえば先生が作って,そのファイルを生徒に配るだけで,「コンテンツ」として使えます。 - また,啓林館のデジタルコンテンツ開発を行うようになってから,教科書の図などで使われるような記号の追加や背景の追加など,さまざまな機能を追加しました。 - そのような意味で,デジタルコンテンツ開発用の道具という性格も強くなってきました。 - 探究のための道具は,数学的探究を妨げないことが大切だと思います。そういう意味で,「ササッと作図して,インターラクティブに探究して,できるだけ数学に専念する」のが大切だと思います。 - 逆にデジタルコンテンツは「誰もが理解しやすく,見栄えもそれなりで,使いやすい」ことが重要なので,「そういうものに仕上げる」のには,それなりの手間がかかることもあります。 - 極端にいえば,「このコンテンツではかなり制約した図の動かし方の方が望ましい」とか,「ここで特別なこういうことが発生する方がいい」というようなこともありえます。基本的にはGC/html5では「汎用的でない仕様は扱わない」ことにしていますが,本体JavaScriptで記述しているので,「特定の図だけで動作するScriptも組み込んで対処する」というような機能を追加するようなこともあってもいいのかもしれません。ただ,その場合のコンテンツ開発は,一つの単体を仕上げるためにプログラミングをしながら開発するのとほぼ同じレベルの作業に変っていきますけれども。 ****1.4 interactiveな探究に適したソフトとは - いわば,「正しい図を精密に実現する」とか,「想定される動きを正確に実現する」のも,大切なことです。 - でも,それは何のためにしたいかというと,私が想定しているのは,「印刷のための正確な図をつくるため」とか,「解説動画をつくるため」が第一の目的ではありません。 - 「そういうものもつくれる」ことは大切ですが,その図と対話をしながら理解を深めていく,interactiveな探究を実現するためのソフトであり,いわばいい意味での「おもちゃ」です。 - ただ,この「interactive」ということ,いろいろな方とお話をするときに,なかなか「わかってもらえない」概念の一つでもあるのです。 ****1.5 「子ども(児童・生徒)に適したシンプルさ」とは - 扱いたい数学的世界を広げようとすると,また,扱いたい数学の内容を高度にしようとすると,どうしても機能が豊富になっていきます。 - どの学年の子どもには,どの程度のシンプルさが適切なのか。 - 大人はついオーバースペックなものを選択しまいがちですが,なかなかむずかしいところです。 ***2. 「教育現場」を念頭においたソフト - 少なくとも次のような点で,「教育現場との親和性」が高いソフトだと思います。 ****2.1 令和7年からは,教科書のQRコードから開くことができる。 - 日本の教育では,教科書の存在は不可欠です。 - 令和7年からは,啓林館中学校教科書の中にあるQRコードからいくつかのコンテンツを開くことができます。 ****2.2 教師用・生徒用デジタル教科書でも採用されてきた - 実は,教師用デジタル教科書では,以前から採用されてきました。 - しかし,教師用デジタル教科書を購入している学校の先生でないと,その存在に気づくことはできません。 - そういう意味では,令和7年は,一つの大きな節目だと思っています。 ****2.3 シームレスにつながっている世界をサポートするソフト - 教科書とか,教師用デジタル教科書は,ある意味で,「商品」です。 - そして,そこでの使い方などは,ほぼきまっています。 - でも,ソフトって,「そこで使えればいいだけ」の存在ではありません。 - あるいは,教育用ソフトの中には,「そこで卒業すればいい」種類のものもあるけれど,「それを使いこなすことで,さらにいろいろな世界を探究していくことが望ましい」ソフトもあります。 - GC/html5は,そういうソフトでありたいと,思って取り組んできました。 ****2.4 フリーな世界を提供するソフト - 数学ソフトの中では,「フリー」なソフトは多いです。 - GCも,そういうソフトとして出発し,いろいろな先生方の探究や実践をサポートしてきました。 - でも,逆に,「教科書等とは別のものとして,使いたい人は勝手に使っていい」というだけでは,日本の数学教育の中ではなかなか定番のものになっていかないのも事実なのです。 - 教科書などでも使われ,フリーな世界も提供していく。そういうソフトとしてのあり方を模索したいと思っています。 ***3.「敷居は低い」が「奥も広い」ソフト ****3.1 「図形」あるいは「幾何」の奥深さ - GCにかぎりませんが,図形ソフトは,一見「なんだ,この程度のことなのね」と思うと思います。それは,ある意味で,「敷居の低さ」といえると思います。 - でも,「探究」という言葉が象徴するように,それとつきあう中で,簡単な図でも,奥深い世界との出会いが,あちこちに生まれるのです。 - もちろん,「それが自然に生まれるように」ソフトを工夫して設計している点もありますが,そもそも,「図形」というもの,あるいは「幾何」という世界が,奥深いものだということを表現していると,私は思います。 ****3.2 interactive software - GCを使う実践で重要な概念の一つは,「対話」です。 - 授業でいえば,一人一台で使うよりも,四人一台で使う方が,生徒同士の対話が生まれて,活動は活性化していきます。 - でも,「四人」であることだけが重要というわけではありません。 - 一人であっても,「ソフトと対話」しているのを実感できるとき,そこでは深い探究がうまれていくことが多いです。 - そもそも,この種のソフトは,interactive geometry software とも呼ばれていましたが,「interactive」であることが,ソフトの特徴でもあります。 ****3.3 図形で生まれる数学的現象を理解する枠組みは複数ある - 図形学習に関連して,「思考水準」という理論があります。 - 子どもの理解の様相において,身近な現象に対して,「形」を手段として考える段階もあれば,それらの形に対して,性質を手段として考える段階もあれば,それら「性質」を対象として「論理や証明あるいは体系化」を手段として考える段階もあります。 - 初等幾何学の先に,Hilbertの幾何学基礎論のような体系をイメージすることもできますが,いや,初等幾何学以外に,解析幾何,ベクトル,複素数の幾何を考えることもできれば,変換を考えることもできるなど,そこからうまれる数学の体系も多様です。 - ソフトそのものが生成する現象を,どういう概念の元で解釈し,発見に値する観察を行うのか,新しい問題を見つけるのか,次にやりたいことを見つけるのか,それこそ,人によって多様です。 - その多様性が,「奥の深さ」の源泉でもあると思います。 ***4. 本体はただのhtmlファイルだけど...だから... いろいろなことができる - GC/html5は,いわゆる「アプリ」ではありません。 -- 「アプリ」はインストールが必要で,学校の機器ではインストールできないことが多いのです。 - GC/hmtl5は,htmlファイル,つまり(プログラムが組み込まれている)文書です。 -- でも,html5の規格の中では,普通のソフトに求めるようないろいろなことができるのです。 -- データを読むこともできるし,ファイルを保存することもできます。 -- ただ,保存等を使いやすくするためには,webサーバと連携する方が楽なので,そこと連携する形をとっているソフトです。 - ネット接続可能で,ブラウザさえあれば,使えます。 -- 学校で使いそうな機器,windows, iOS, chromobook, Linux など,ほとんどの機器で使えます。 - international -- ブラウザ上で動作するので,internationalな存在です。 --- DOSの時代は,機種既存だったので,日本国内でも複数の版が必要でした。 --- windows版も,日本国内限定でした。 --- windows 8あたりから,windowsそのもので多くの言語の文字を表現できるようになりました。「どこでもそのまま使える」のはすばらしいことです。 -- 今でもメニューは英語に切り換えられますから,海外の方も利用しています。 --- ある時期,韓国の留学生がいたので,メニューをハングルでも表現できるようにしてみた時期もありました。(その後のフォローをしていないままですが) --- 「その気と労力」のある方がいれば,他の言語にも切り換えることができるような対処も可能です。